それは、偶然の逢瀬で。


ALWAYS




願いは誰でも一つは

かなうもんだな…。




華武高校1年、墨蓮はその日部活の休みで珍しく開いた時間をもてあましていた。
それで街中をなんとはなしに歩いていた時。

突然バイオリンの音が聞こえてきた。

それは素人にも分かる澄みきった音色。

(へえ…珍しいな。
 ギター弾いてる奴は多いけど…。)

そう思いながら、音のする方向を向くと
人だかりが、声も立てずに集まっているのが目に入った。



「あれかな?」

曲名は分からないけど、クラシックなのは何となく分かる。
それなのにこれだけの人を集められるなんて。
そう思うと、弾いている人間に興味がわいてきた。


そして、そう低くはない身長で、少し背伸びをすると。

少し遠くで弾いている人の姿が見えた。



「え…?」

そこには、自分と同じくらいの学生らしい少年。

墨蓮は驚いた。

それは、こんなに洗練された音を出していたのが自分と同じくらいの少年だったから、というのもあったが。
知っている人間だったからだ。



呆然としている墨蓮に気づくこともなく、彼は音を奏で続ける。

その姿は少し幸せそうに微笑んで。
その笑みがとても綺麗で、可愛くて、魅力的で。

ここにいる人々が、彼の音楽だけではなく、その姿にも惹かれて集まっていたのがよく分かった。

そして、墨蓮も例に外れることなく、その場に留まっていた。



###########

しばらくして、音が途切れ。
大きな拍手と、コインを投げる音が響いた。

そして、バイオリンを持った少年は聴衆に明るい笑顔を見せた。


見ていた墨蓮も、一息つく。


そして次々と聞いていた人々がほめ言葉を口にしながら解散した後。


彼に、話しかけた。


「猿野…だよね?」


########



「まっさかこんな所でバレちまうとはな〜。」

先程の場所から少し離れた喫茶店で、天国は少し身体を伸ばし、墨蓮と座っていた。

名を呼ばれて驚いた天国が、そのまま墨蓮の腕をひいてここではなんだから、と連れてきたのだ。


「それにしても…上手なんだね、バイオリン。
 すごく綺麗な音だったよ。」

墨蓮は素直に賞賛の言葉を言った。
すると、少し照れたように天国は笑う。

「サンキュな。ま、ちっせー頃からやってたから…年月のワザってやつ?」

「それだけじゃないと思うけど…。
 時々あそこで弾いてるの?」

できればまた聞きたい。
そう思いながら墨蓮は質問した。


「ん?まあ場所は変えてるけど…あそこは3回目くらいかな。
 時々人前で弾きたくなるんだ。
 知ってる奴に見つかると恥ずかしいけど。」

「…オレは見つけて得したけどな。
 悪かった?」


「あ、いや別に悪かねーけど。
 えっと…あのさ、名前なんつったっけ?」
天国は、相手の名前を知らない事にやっと気づいて、ここで聞いた。

すると、墨蓮も自分の名前を言ってないことに気づき。
自己紹介した。



「ごめんな、華武の奴っつーのは覚えてたんだけど…。」
「いや、それを覚えてくれてただけでマジ嬉しいよ。
 オレってあんまり目立たないしさ。」

話しながら、墨蓮は天国が意外と気遣うタイプなのに気づいた。

そして、また少し嬉しくなる。


華武では他の誰も知らない天国を一番先に知る事ができて。



「ねえ。猿野。」

「ん?何?」


だから、少し調子に乗った。



「次はいつ弾くの?」


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「屑桐さんっ!頼みますよ〜〜!!
 今日は休ませてください!!」

「ふざけるな御柳。
 夏の大会が終わったからと言って気を抜きすぎだ。
 そんなことだから…。」

「だって墨蓮も休むっていってるじゃないっすか〜〜!」

「墨蓮は前々から休部届けを出している。
 大体なんだってそんなに休みたがるのだ?」


「だって今日は…っ!!」




「え〜〜〜〜っ?!今日の十二支の文化祭で猿野がバイオリンソロ?!!」




「……。」





華武高校本日休部決定。



###########

「まさか文化祭まで持ち越すとはね…。」

「いいだろ?別に。」
天国はいたずらっぽい笑みを見せる。

その頃、舞台袖で出番を待つ天国のところに、墨蓮が来ていた。

初めてバイオリンを弾く天国を見た日、墨蓮が言った言葉。
「次に弾くときもみたいな。」

それが、夏を過ぎて秋になり、十二支高校の文化祭の日に実現される事になったのだ。

そのために影で沢松が暗躍していた事は言うまでも無いが…。


「そりゃいいけどさ。でも、なんで文化祭に?」

「ん〜やっぱりさ、こういう舞台で弾く方がオレって調子出るから。」


見たいって言ってくれたから、少しでも綺麗に聞かせたい。


そう言葉の端でいいながら。


『次のプログラムは、1年B組、猿野天国によりますバイオリンの演奏です。
 曲目は…。』


「んじゃ、しっかり聞いてろよ?」



そう言って、天国は颯爽と舞台に歩いて行った。




『パッヘルベル作曲 カノン』



曲が始まり。


カノンのように追いかける墨蓮の恋が始まる。




ふと懐かしいメロディ

行き交う人の群れに立ち尽くした 何をしているのだろう?


君の書いた言葉が突然胸をよぎるよ

「未来は無限に広がる」

会いたくて泣き出しそう

願いは誰でも一つはかなうよ

無理に答えをだしては ともした灯を 消さないように…





                                      end





おまけ

 「墨蓮…よくも抜け駆けしやがったな…。」
 「……そういうことか…。」
 「許せねえング…。」
 「覚えてろよ〜〜〜。」

 「す…帥仙先輩…助けてくれません?」
 「却下。」

 天国の演奏に結局間に合わなかった華武メンバーに四面楚歌な目にあう墨蓮に
 見方は居なかったそうです。

                             歌詞引用                                                             「うたまっぷ」様  曲目「Always」光永亮太

墨蓮×猿になりましたね。これ。
あとちょっと元ネタ槇村さとる先生の「まみあな四重奏団」入ってます。
「Always」は前々から墨蓮くんだ!と思った曲なのでここで引用させていただきました。
あんまり文化祭ネタじゃなくてすみません…。

樹 螺旋さま、何ヶ月もお待たせして本当に申し訳ありません!
素敵リクエストありがとうございました!

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